結婚して半年、私は毎日が幸せでたまらなかった。
妻と出会ったのは、いわゆる合コンだった。
私が勤めていた支店の取引先で、業界でも古株のデパートがあり、そこにいる経理部の男に誘われたのだ。
「うちの業界は厳しいんですよ。店の女の子たちは俺たちなんか眼中になくて、無視ですよ。将来がないから。Kさんが来てくれたら、めちゃくちゃモテますよ」
彼は少し自嘲気味に笑いながら言った。
「M銀行なんて、トップクラスですもん。Kさんは出世頭だし」
最近、融資を渋るようになった私の会社に配慮してか、彼は必要以上に謙遜している。
大学を卒業して元カノと別れて以来、ほぼ10年まともな彼女がいない私は、もう結婚を考えないとヤバい年齢になっていた。
独身じゃ海外転勤もままならないし、何より女の子にモテないダメ男扱いされるのはプライドが許せなかった。
「じゃ、自己紹介。こちらがM銀行のI支店、33歳で副支店長のエリート、Kさん!」
流行りのエスニック風居酒屋に集まったのは、私とその男、それに女性2人。
1人はどうやら幹事の男とかなり親しげで、体を触り合っていた。
もう1人、栗色のショートヘアで顔の小さい女性が妻だった。
「みゆきちゃんは、合コンとか苦手で慣れてないんですよ。Kさん、たくさん話しかけてあげてくださいね」
妻の友人らしい、派手めな化粧の女が、すでに酔っているのか私を焚きつける。
隣で妻は恥ずかしげに微笑んでいた。
「Aさんは、エレガントなんですよ。でもこんなに可愛いのに社内外でファン多いのに、真面目なんですよね」
男はそう言って、照れる妻に「Kさんは大丈夫、ちょっと真面目すぎるくらいだから」とフォローした。
私は彼女に一目惚れしてしまった。
デパート業界の派手なイメージも、話すうちに消えていった。
その後、数回のデートを重ね、出会って4ヶ月。
私の隣町への支店長転勤とほぼ同時に結婚した。
すぐに専業主婦になってほしかったが、後任が決まる春まで働かないと店に迷惑がかかるといい、妻はしばらく続けることにした。
そんな責任感の強さも、彼女を妻にした理由のひとつだった。
ある日、前の支店に用事で妻のデパート近くまで行った。
書類手続きに時間がかかり、その日はその町で一人夕食を食べる羽目になった。
妻は父親の入院で一日だけ実家に帰っていた。
和風のこぢんまりした居酒屋で一人酒を飲んでいると、隣の個室が賑やかになった。
体格のいい男たちが5、6人で盛り上がっている。
すると、突然妻の旧姓が耳に入ってきた。
「ショックだよなー。本社研修から戻ったら、Bさんが結婚してたんだぜ。それもなんか銀行マンだって?」
妻の会社の連中か?私はつい聞き耳を立てた。
「お前が全国大会に選ばれたせいだろ?おかげでこっちは地区予選で苦労したんだぞ」
間違いなく妻のデパートのラグビー部員たちだ。彼女の店は全国トップクラスの強豪で、有名大から選手が集まっている。
「マジでショック。俺、超ファンだったのに。エレガントで清楚な子なんて珍しいよな」
私が優越感に浸りかけた瞬間、彼らが大笑いした。
「Bさんが清楚?ははは、お前まだ店の内情知らねえな」
どういう意味だ?彼の疑問に、私も胸が高鳴った。
どうって、同期のあいつに聞けよ。
障子越しに言葉が刺さる。
「ここにいる奴ら、みんな兄弟みたいなもんだ。お前以外。あいつ、部のフィジカルコーディネーターだろ」
兄弟?みんな?私の疑問を、仲間外れの男が代弁した。
「マジ?お前も?いつからだよ?結婚前か?」
手が震えて止まらなかった。
そんなバカな……。
「前ってか、今もだよ。俺、最近練習前に屋上でするのが習慣だけど」
お前もか?あいつフェラ上手いよな。やっぱ制服でバックは男のロマンだよな。
信じられない会話が続く。話が盛り上がり、1人が妻の携帯に電話をかけた。
仲間外れの男が妻と話していて、週末の飲み約束を取り付けていた。
私は、きっと同姓同名だ、同じ名前の同僚に違いない。
あの清楚な妻が……と自分を言い聞かせた。
障子越しに声が。
「うちの制服姿のBさんが屋上でしゃぶってくれると思うと、まだ現役でいられるよな」
「ど、どうやって?屋上のどこ?」
「お前もできるぜ。従業員用のDエレベーター上がって、階段登った乾物倉庫だろ。あそこがいいスポット。鍵かかるし、ほとんど使われてねえ」
「俺、あそこでBさん後ろから突きながら、旦那の話聞くの好きなんだよ」
「お前変態だな。去年までいたスミスが、制服フェチになって帰国したの笑えるよな」
「俺はホテル派。制服よりあいつのボディが最高だ」
彼らの話が別の女のことに移っても、私は店を出られなかった。
二日後、妻は「今日は送別会で少し遅くなる」と家を出た。
私が帰る頃には帰宅していて、何も変わった様子はなかった。
あの話は何だったんだ……。
翌日、入社以来初の有給を取り、妻のデパートへ向かった。
従業員通路の警備員は私を覚えていてくれた。
店長らとよく入る私をVIP扱いし、中へ入れてくれた。
こんなことして何になる……。
Dエレベーターを探し、最上階へ上がり、階段を上って右に曲がり、乾物倉庫に着いた。
ドアは開いていた。中に入り、積まれたダンボールに隠れた。
こんなことして……妻が浮気しててもここが決まりきってるわけじゃない。
あの話は妄想だ、と自分に言い聞かせ、うずくまっていると、昨夜の悩みで眠気が来た。
……ガチャ。ドアの音で目が覚めた。
自分がここにいるのを思い出すのに時間がかかった。俺は……ここで……
聞き慣れた声が耳に。
「もう、誰から聞いたの?この場所のこと……」
妻の声だった。
妻が、大柄な男と2人で倉庫に入ってきた。
「いや、別に。男の夢ってやつかな」
あの居酒屋で「ショックだよな」と言っていた声だ。
「あと40分しかないよ、昼休み。佐藤君のとこのリーダーって田中さんでしょ?あの人厳しいよ?」
制服姿の妻を見るのは初めてだった。
エレガントだとか制服がいいとか、私は言えなかった
。知的な話題を心がけてきた。
でも、モスグリーンのジャケットにピンクのスカーフ、黒のタイトミニの妻は、家での何倍も魅力的だった。
「大丈夫。あの人、俺が全国選抜だって業者に自慢しまくってるらしいし、妙に気に入られてる」
「佐藤君、おじさん受けいいんだね。でも、昨日したばっかなのに……欲張りだよ」
妻は笑いながら彼の足元にしゃがむ。当然のように。
「あんなの、ご飯食べてその後1時間だけじゃん。旦那帰る前に家にいなきゃって、みゆきさん早番でも8時帰りじゃ短いよ!」
妻はゆっくりベルトを外し、ズボンを下ろしながら話す。
「しょうがないでしょ?今年の新人は生意気ね。悪いと思ったから、ほら、今日は君の夢叶えてあげてるよ?」
トランクスだけの彼の股間を、妻は細い手で撫で回す。
「ああ、マジか……みゆきさん、なんでそんなエロいんだ……」
「うーん、なんでだろうね。でも、家庭とセックスは分けてるよ。ちゃんと」
妻の手がトランクスを下ろし、飛び出たものを軽く握る。
若いラガーマンのそれは、古いコーラ瓶みたいだった。妻はそれを2、3回しごくと、迷わず舌を這わせ始めた。
私の3メートル先で、私の妻が他の男のものをしゃぶっている。結婚4ヶ月の妻が。
「あうう……。マジ夢みたい……制服だもんな……あ、旦那さんにもするの?」
妻は棒の中ほどまで咥え、たしなめるように頭を速く動かし始めた。
「あ、やべ、だめ……」
男は妻の頭を掴み、下半身を震わせた。口に……私の妻の口に出している。
妻は少し顔をしかめ、ゆっくり搾るようにしごき、喉を何度か動かした。飲み込んだのだ。
「最高……でも、まだ20分ある」
若い男は妻を立たせ、硬くなったままのものを握り、彼女の両手を壁に押しつけ、パンストを素早く丁寧に下ろした。
「うわ、濡れすぎ……」
彼は妻の腰を掴み、ゆっくり腰を押し込んだ。
妻はくぐもった声を上げ、彼を受け入れた。
「うわ、ん……俺、制服のエレガ嬢とやってる……しかも人妻……信じられねえ……」
彼は夢中になって腰を激しく振る。妻は時折、喉の奥から声を漏らし、快感に耐えるように顔を伏せた。
「ああ、佐藤君、すごい……」
妻の黒いヒールがずれそう。若い男はスピードを上げ、腰を力強く動かした。
「ピ、ピル飲んでるよね……いいよね」
妻が頷く。若い男は妻の細い腰のベルトを掴み獣のように激しく打ちつけた。
「みゆきさん……みゆきさん……!」
妻は唇を噛みしめ、声を殺しながらも体を震わせている。
制服のスカートがめくれ上がり、白い太ももが男の腰に絡まる。
乾物倉庫の埃っぽい匂いと、二人の熱い吐息だけが響く。
「出る……出るよ……!」
「だめ……中で……!」
妻が小さく叫んだ瞬間、男は深く埋め込んだまま全身を硬直させた。
ビクビクと脈打つ感覚が、妻の奥で確かに伝わっているのが、私にはわかった。
数秒の静寂
男がゆっくりと抜くと、白い液体が妻の内ももを伝って滴り落ちた。
妻は荒い息を吐きながら、ティッシュで丁寧に拭いている。
その仕草があまりにも慣れていて、私は吐きそうになった。
「やっぱ最高だわ……みゆきさん」
男は満足げに笑いながらズボンを上げた。
「もう……佐藤君はいつもこんなにいっぱい出すんだから」
妻は照れくさそうに笑い、スカーフを直し、パンストを上げ直す。
鏡もないのに、まるで何事もなかったかのように整った姿に戻っていく。
「今週末、飲み会あるじゃん? その後、また……ね?」
「……うん。でも旦那が最近ちょっと疑ってるみたいだから、気をつけないと」
妻が小さくため息をついた。
「え、マジで? バレそう?」
「大丈夫だと思うけど……少し控えめにしないと」
二人は軽くキスを交わし、倉庫を出て行った。
私はダンボールの陰で、どれだけ時間が経ったかわからないほど震えていた。
立ち上がることもできず、ただ床に座り込んだままだった。
それから一週間、私は何も言えなかった。
妻はいつも通り優しく、いつも通り家事をこなし、いつも通り夜には私の胸に寄り添ってきた。
でもそのたびに、私はあの倉庫の光景をフラッシュバックで見てしまう。
ある夜、妻が寝静まった後、私は彼女のスマホを見た。
ロックはかかっていなかった。
LINEのトーク一覧の上から5番目に、「佐藤?」という名前があった。
最新のメッセージは今日の昼。
佐藤
今日もありがとう。制服のみゆきさん、やばかった。
妻
もう、恥ずかしいんだから?
でも佐藤君の元気なところ、好きだよ
その下には、昨日のやりとり。
佐藤
今週末、合宿あるから2日空く。会いたい。
妻
私も会いたい……
でも旦那が最近なんか変だから、少し我慢しようか?
佐藤
マジか……でも我慢できないかも(笑)
私はスマホを元に戻し、ベッドに戻った。
妻は私の腕の中で穏やかに寝息を立てている。
その寝顔を見ながら、私は静かに決めた。
――このまま、何も知らないふりをしよう。
妻が私を愛してくれているのは本当だと思う。
彼女が私にくれる優しさも、笑顔も、全部本物だと思う。
ただ、彼女の中には、私だけでは満たされない部分がある。
それがラグビー部の若い男たちで埋められているというだけだ。
私はそれを「受け入れる」ことにした。
だって、妻を失うことの方が、ずっと怖かったから。
それから私は、妻が「送別会」「残業」「友達とご飯」と言うたびに、静かに送り出した。
妻は少しずつ大胆になっていった。
ある日は帰宅が深夜2時。玄関で靴を脱ぐ妻の首筋に、はっきりとしたキスマークがあった。
ある日はシャワーに入る前に、妻が慌てて洗濯機に放り込んだ制服のスカートに、白い染みがべっとりとついていた。
私はそれを見て、黙って抱きしめた。
妻は驚いた顔をして、それから安心したように笑った。
「大好きだよ」
妻がそう囁くたびに、私は「俺もだよ」と答える。
そして心の中で呟く。
――お前が他の男に抱かれている姿を、俺は全部知っているよ。
それでも、お前を手放せない。
これが、私たちの夫婦の形なのかもしれない。
私は妻の寝顔を見つめながら、静かに目を閉じた。

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