その頃、エミコさんは戦争で夫を亡くした未亡人で、37歳だった。
エミコさんとは、私が今の妻・アヤカとまだ付き合っていた頃、
恋人同士で抱えていたいろいろな悩みを何度も聞いてくれ、二人をそっと後押ししてくれた人だった。
実質的に私たちの「仲人」みたいな存在で、夫婦になった今でも、姉のように慕い、心から感謝している大切な人だった。
ちょうどその時期、アヤカは出産が近づいていて、実家に里帰りしていた。
予定日の直前、日曜日の午後にアヤカに会いに行き、励ましの言葉をかけて励まして帰る途中、ふとエミコさんの家に寄った。
久しぶりにゆっくり話そうということになり、居間で酒を酌み交わしながら、昔話に花を咲かせていた。
話が尽きず、時計を見たらもう最終電車の時間はとうに過ぎていた。
「仕方ないわね。今夜は泊まっていきなさい。明日の朝イチの電車で会社に行けばいいじゃない」
エミコさんはそう言って、にこりと笑った。
家は古い平屋で、居間は一部屋きり。
それでもエミコさんは、私のことをまるで弟のように信頼してくれていて、少しも警戒する様子はなかった。
「じゃあ、こたつで一緒に丸まって寝ましょうか」
そう言って、彼女は自分の布団を少しずらし、私にもスペースを作ってくれた。
どれくらい時間が経っただろうか。
ふと目が覚めると、部屋の隅に小さな豆電球がぼんやりと灯っていて、壁の掛け時計は午前一時を指していた。
こたつの向こう側では、エミコさんが小さく丸くなって、静かな寝息を立てていた。
その寝姿を見た瞬間、久しくアヤカの身体から遠ざかっていた男の欲望が、急に熱く疼き始めた。
出産前の妻とは、もう何ヶ月も肌を重ねていない。
目の前にいるのは、妻より十歳も年上の、37歳の女の身体。
柔らかそうな浴衣の下に隠された肌は、どんな感触なのだろう。
妻とはまた違う、熟れた女の匂いと温もりは、どんなものなのだろう。
触れたら、どんな声で、どんな反応を見せてくれるのだろう……。
そんなことを考えるだけで、心臓がどくどくと速く鳴り始めた。
もちろん、これは絶対にいけないことだ。
道徳にも、恩義にも反する。
エミコさんは、私たち夫婦にとって大切な人なのだから。
頭ではわかっているのに、身体は言うことを聞かなかった。
迷い、葛藤し、理性と本能が激しくぶつかり合った末に、結局、男としての衝動が勝ってしまった。
音を立てないように、ゆっくりと布団の中へ手を伸ばした。
エミコさんはまだ丸まったまま、穏やかな寝息を続けている。
その寝顔をじっと見つめながら、恐る恐る手を動かし、浴衣の裾の下、柔らかなお尻のあたりに指先を触れさせた。
途端に、エミコさんの身体がぴくりと震え、目がぱっと開いた。
「……えっ、どうしたの……?」
驚きと戸惑いの混じった小さな声。
すぐに身体を引こうとする。
「ご、ごめんなさい……目が覚めてしまって、つい……本当にごめんなさい」
私は慌てて謝った。
「だめよ、そんなこと……」
声は少し震えていたけれど、はっきりと拒絶の意志が込められていた。
「何もしないから……ただ、こうして近くにいるだけでいいから……」
「いや……本当にだめ……」
「お願い……」
「アヤカちゃんが出産前で、ずっと我慢してるあなたの気持ちは、わかるわ。でも……だめなのよ」
エミコさんの言葉は、きっぱりしていた。
私は観念したように、彼女の横で仰向けになり、それ以上は何もせずにじっとしていた。
しばらく沈黙が続いた。
やがて、寝返りを打つふりをして、ゆっくりと身体をエミコさんの方へ向けた。
背中合わせの形になり、彼女のくの字に曲がった背中と、むっちりとしたお尻がすぐそこにあった。
自然な流れで、私の股間が彼女の柔らかなお尻に触れそうになる。
必死に距離を取ろうとしたけれど、昂ぶったそれは、もう隠しようがなかった。
「だめ……やめて……」
小さな、けれど切実な声。
「こうしてるだけでいいから……お願い……」
私は必死に懇願しながら、話題を変えようとした。
「ねえ、ケンタ君が生まれたとき、もうご主人は戦地にいらしたんですよね……?」
「……ええ、そう。ケンタが生まれる二ヶ月前に召集されたの」
「じゃあ、ご主人はケンタ君の顔を一度も見ることなく……」
「……そう。戦死の知らせが来たとき、ケンタはまだ生後八ヶ月だったわ」
エミコさんは、静かに、けれどはっきりと話し始めた。
私はその話を聞きながら、そっと彼女の腰やお尻を撫で続けていた。
彼女はそれを意識しながらも、拒絶の言葉を続けつつ、昔のことを語ってくれた。
「その頃は、もう戦争が激しくなってきて、男の人はいつかは兵隊に取られるって、みんなわかってたの。
だから、出征前にできるだけ早く結婚させようって、周りの人がすごく急かして……
私、結婚したのは昭和十八年の冬、まだ十八歳だった。
結婚してから毎晩、主人は私を抱いてくれた。
技巧なんて何もなくて、ただ抱かれて、あっという間に終わってしまう……そんな夜が続いたわ。
でも、すぐに妊娠して……。
そして十月、とうとう召集令状が来たの。
私たちの夫婦生活は、たった十ヶ月だけだった」
彼女の声は、少しずつ昔の記憶に沈んでいった。
私は黙って聞きながら、浴衣の上から、そっと彼女の胸のあたりに手を這わせていた。
心臓が激しく鳴っているのが、自分でもわかった。
エミコさんは、私に後ろからそっと抱き込まれる形で、布団の中にいた。
「……だめ……やめて……お願い……」
小さな声で抵抗しながら、身体を少しずつずらそうとする。
それは本能から出る、女としての最後の抵抗だった。
その仕草を見た瞬間、私は一度は諦めようと思った。
でも、唇からは正反対の言葉がこぼれ落ちる。
「本当に……何もしないから。ただ、こうして触れさせて……お願い……」
心にもない言葉を口にしながらも、私の手はすでに彼女の柔らかな太ももに触れていた。
エミコさんの肌は、温かく、しっとりと湿り気を帯びていて、紛れもなく生身の女のものだった。
抵抗する仕草とは裏腹に、身体の奥底では、長い間抑え込んできた女の本能が、静かに疼き始めているのが感じられた。
私はゆっくりと浴衣の裾を捲り上げ、パンティの上から秘部に指を這わせた。
最初は形ばかりの抵抗が続いていたけれど、次第にその手つきが弱まっていく。
やがて、浴衣の胸元をそっと広げると、そこから現れた豊満な乳房が、私の手の中で柔らかく形を変えていく。
二十六歳の妻・アヤカのものより一回り大きく、熟れた脂肪に満ちたその胸は、触れるだけで手のひらが沈み込むような柔らかさだった。
エミコさんの抵抗は、ほとんど形骸化していた。
彼女はただ、じっと身体を預け、されるがままになっていた。
胸元をさらに広げ、白く豊かな乳房を完全に露わにすると、ピンク色の乳首はすでに硬く尖り、疼くように震えているように見えた。
私の無骨な指がそれを摘み、優しく、時には少し強く弄ぶ。
37歳の熟れた女の肌は、妻にはない深い柔らかさと、吸い付くような感触があった。
色白で、ほんの少しふっくらとした肉付きが、かえって男の欲望を強く掻き立てる。
今思えば、あの時のエミコさんは、まさに女盛り。
女性として最も成熟し、熟れきった瞬間だったのだろう。
興奮を抑えきれなくなった私は、一方の手で彼女の膝裏を掴み、もう一方の手を股間の奥へと滑り込ませた。
もう、エミコさんの抵抗は完全に消えていた。
顔は恥ずかしさで桜色に染まり、目を伏せながらも、されるがままに身体を開いている。
指先が愛撫を続けると、パンティはすぐに湿り気を帯び、布地越しに熱いぬめりが伝わってきた。
私は思い切って、ゴムに指をかけ、パンティをゆっくりとずり下げた。
現れた陰毛の柔らかな丘、その奥に広がる温かな谷間は、すでにたっぷりと愛液で潤っていた。
二十年もの間、男に触れられなかった女の身体が、こんなにも激しく反応するなんて……。
妻より十歳も年上の37歳の女が、こんなに濡れるものなのかと、驚きと興奮が入り混じった。
エミコさんは、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆い、声も出さずに身を委ねていた。
パンティは片足から完全に外れ、もう一方の膝に引っかかったまま。
十歳も年下の私が、彼女の身体を犯そうとしている。
戦死した夫を出征させて以来、二十年ぶりに男を知る瞬間だった。
普段は知的で、冷静で、決して男女の道を誤らないエミコさん。
それなのに、今、女としての性欲が目覚め、溺れ始めている。
長い禁欲の果てに、男の手が触れた瞬間、真面目な彼女でさえ抗えない。
それが、女の自然な姿なのだと、私は改めて思い知った。
指が秘部を這い回るたび、エミコさんの腰が微かに上下に動き始めた。
指先が敏感な部分を執拗に弄ぶと、彼女は太ももをぎゅっと閉じ、身体を硬くしながらも、ピクッ……!と大きく震え、背中を反らせる。
私がさらに激しく動かすと、エミコさんは全身をのけぞらせ、
「ひぃぃ……っ!」
という、悲鳴とも歓喜ともつかない小さな声を漏らした。
予想だにしなかった展開に、私の興奮は頂点に達していた。
あの貞淑なエミコさんが、私の指だけでここまで乱れ、絶頂へと導かれようとしている。
妻との営みでは決して見ることのなかった、女の激しい興奮の形相だった。
それは衝撃的で、淫靡で、強烈な光景だった。
そして、ついにエミコさんは指先で頂点に達した。
身体は布団に仰向けに崩れ、荒い吐息を繰り返す。
そのたびに、豊かな乳房が上下に揺れる。
私はそっと彼女の顔を覗き込んだ。
すると、エミコさんは小さく「うん……」と頷き、潤んだ瞳で、私をまっすぐに見つめ返してきた。
それは、もう「来て欲しい」と訴えるような、甘い視線だった。
彼女は恥ずかしそうに、けれど積極的に、私の首に腕を回そうとする。
あの頑なだったエミコさんが、こんなにも変わってしまうなんて……。
私のペニスは、パジャマから飛び出し、27歳の若い男のそれは、驚くほど大きく硬くそそり立っていた。
覆い被さろうとする私に、エミコさんの視線はまっすぐにそこへ注がれる。
二十年ぶりに見る男の怒張に、彼女の目は釘付けになっていた。
私はゆっくりとエミコさんの股間に狙いを定め、腰を沈めていった。
二十年もの間男を迎えていないそこは、きつく、入りづらかった。
けれど、力を込めて押し進めると、ついに奥深くまで納まった。
「うぅ……っ」
エミコさんの首が大きくのけぞり、甘い呻きが漏れる。
私がゆっくりと浅い抽送を繰り返すと、彼女は首を激しく左右に振り、
「うぅ……っ!」
と声を上げ、同時に身体を震わせて私にしがみついてきた。
クリトリスをかすめた瞬間だったのだろう。
もはやこれは、強引な行為でも、仲人としての関係でもなかった。
ただの、男と女。
純粋な肉欲の世界だけが、そこにあった。
リズミカルなピストンを続けると、エミコさんはもう抵抗するどころか、快感に身を委ね、酔いしれているようだった。
時折、激しく、力強く腰を打ち込むたび、彼女は自分から腰を動かし、より深く私を受け入れようとする。
やがて私が大きく腰を振り始めたとき、目を固く閉じたエミコさんは、
異様なまでの恍惚の表情で、悲鳴のような声を上げ、全身を激しく震わせた。
絶頂に達したのだ。
身体はビクッ……ビクッ……と痙攣を繰り返す。
その姿を見た私は、もう我慢できず、
「う……っ、うぅ……!」
と声を漏らしながら、彼女の奥深くに大量の精液を注ぎ込んだ。
力尽きて、ぐったりと倒れ込んだ私は、そのままエミコさんに繋がったまま、しばらく動けなかった。
普段のエミコさんは、世話好きで真面目で、決して男女の異常な関係に興味を示さない人だった。
それなのに、この夜、二十年ぶりに男を受け入れ、私のものが奥まで入ると、抵抗するどころか腰を振り、喘ぎ、乱れていた。
眉間に皺を寄せ、ピンクに染まった顔で、快楽に溺れる姿は、日常の彼女とは別人のようだった。
長い間男から遠ざかっていた女が、強烈な快楽を与えてくれる男に、服従するような空気に包まれていたのだろう。
熱が冷めた頃、エミコさんは小さな声で呟いた。
「……私、主人が出征してから、この二十年間、一度も男を知らなかったの……
あなたは、私を女として甦らせてくれた……悪い人ね……アヤカちゃんとは、いつもこうなのかしら……?
あなたとこんなことになってしまったら、私、もうアヤカちゃんに顔向けできないわ……でもね……
私とのことは、これっきりよ……浮気はだめ。女はアヤカちゃんだけにして。ちゃんと約束して……
アヤカちゃんを大切に、しっかり愛してあげてね……」
妻より十歳も年上の女の肌に触れたあの日。
それは、若い妻にはない、熟れた女の濃厚な色気だった。
頑なな女が、男に負けて深く乱れる姿を目の当たりにして、私は深い満足感に包まれていた。
静かにエミコさんから離れ、自分の布団に潜り込む。
時計は午前二時を指していた。
たった一時間の、濃密な愛だった。
翌朝、目が覚めて寝床の中で目が合う。
もう、そこにあったのは他人同士の視線ではなかった。
親密で、甘く、男と女のものだった。
自然に、どちらからともなく、再び抱き合った。
昨夜のような抵抗はなく、エミコさんは私に甘えるように身を預け、昨夜以上に大胆に乱れ、果てた。
年上の女と年下の男。
年齢など関係のない、夜明け前の情熱的な愛だった。
エミコさんが作ってくれた温かいご飯と味噌汁をいただき、朝六時の始発に二時間近く揺られ、会社へと向かった。
それは、私が27歳、新婚二年目の一月末。
妻・アヤカが出産を目前に控えた、あの冬のことだった。
それ以来、エミコさんを抱くことは、二度となかった。



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